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小須戸アートプロジェクト リサーチ報告書

「おかめ菓子の幽霊 / Ghost in the Okame」の構想作成のために

リサーチ期間:2024年8月27日〜9月8日

 

1:はじめに

2:事前の計画

3:現地リサーチの過程

4:リサーチ

4−1:地元の食の調査について

4−2:おかめ菓子について

5:考察

6:作品の構想について

 

1:はじめに

私は現在、福島県の被災地域で立ち上がったアートプログラムを行っている。私の興味は、社会環境を観察し、状況について考察することにあり、“社会”という環境の中でいかにアートが確立することができるのか、人々が生活をする地で合意され形作られる“アート”の形について、作家と運営の立場から考察をしている。衣食住に代表される人々の生活の中に、創造性や日美的感覚の発現、感情を刺激するようなものがあり、それらは社会の中にある創造性である。そしてそのような美的感覚は、本邦に古来からある伝統的なアートの形と親和性が高いのではないかという仮説のもと活動をしている。小須戸ではそのような考えのもと、食文化を起点にしたアート作品を構想している。食文化は地域や個人のアイデンティティと複雑な関係がある。参考までに、「食の社会学」(NTT出版)の一節を引用する。

 

「結論―食文化とアイデンティティの複雑な関係

本章が示すように、アイデンティティは個人が自由に選択するものではなく、社会における私たちの構造的な立場によって強力にパターン化されるものである。食文化の重要な要素を担う食の儀礼は、集団との一体感を促すことで、そこへの帰属を強めると同時に違いも明らかにする。そしてさらに、私たちはグルメツアーや食品産業が提供する商品によって食の境界線を超え、文化的差異に挑戦する。〜中略〜人々が食にまつわる儀礼の内容や意味を変え、参加の仕方を多様化し、食の境界線を引き直そうとするに伴って、私たちの食文化は絶えず変化し続ける。食文化はインサイダー(部内者)とアウトサイダー(部外者)の違いを明確にし、アイデンティティを逆説的に維持することで私たちに変化を促す」(「食の社会学」(NTT出版)p49)

 

つまり、食文化は内在化された集団のアイデンティティを表面化させ、社会の何らかの課題や状況を象徴的に示し、文化という抽象的な概念の輪郭を明確にする可能性がある。食文化やその周辺にある特定のシンボルやアレゴリー、メタファーをアート作品の観点から形にし、それらを鑑賞者に提示することは、単なる地域の食文化の発掘とその利用にとどまらない、より広い観点からの人の生活や文化に対する示唆を提示できる可能性がある。

 

上記を踏まえ、小須戸アートプログラムへは以下の内容で申請を行った。

「人々の生活のなかで合意・継承され、形作られる文化」として、地域の食文化、特に漬物や干物などの保存食文化に着目してリサーチを行いたいと考えています。近年、日本伝統食品研究会や農林水産省が「伝統食」という概念を提唱しています。「伝統食品」は「地域の産物を原料にして長い間その地方の住民によって食用にされてきた食品」です。史跡や文化財のような「物体の継承」とは異なり、そこでは調理法という「知識」や「やり方」が継承されます。高度な技術を要するものもありますが、そのほとんどが、誰にでも再現可能な方法である場合が多く、多くの人によって継承された「伝統食」という概念は、地域の文化的背景を如実に反映します。今回のリサーチでは、食文化と、それを継承する行為自体を「アート的なもの」と捉え、その調理法に至る歴史的な経緯や、その過程で起こる出来事、継承という行為そのものについて調査、考察をしていきたいと考えています。

 

県の資料を見てみると、小須戸地域とその周辺地域には、郷土食として、しょう油漬、みそ潰、たくあん漬、たい菜潰などがあります。下越地域全体まで視点を広げると、乾めん、鯛ずし、朝鮮潰、山海潰、しその実潰、ぜんまい、食用菊、浜ボウフウ、女池菜(薪潟)、川流れ菜、鮭のみそ漬、鉱泉せんべい、きのとまん、花嫁ごりょう、ありの実、蓋生糖、雪の梅、椿もちなど、さまざまな食文化が見られます。これらは互いに影響し合っていることが推測されます。また、すでに閉店したようですが、創業90年以上の木村冷菓店というアイスクリーム屋さんや、多くのB級グルメなどがあり、各食の関係性や、その背景にある意図、現在の影響について俯瞰して調査をする中から、「アート」と「食文化」の関係性について調査を進めていきたいと考えています。

​全文はこちらから

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